上海ベイベと香港ガーデン

自堕落な元バンドマンの独り言集。

少年は空を見ない

俺が英語を担当している生徒の、数学を担当している先生が憤っていた。「英語13点ですよ。しかも空欄だらけで、記号問題さえ書いていない。やる気を感じない。」云々。「まあ、ねえ。」と濁していたが、努力すれば半分、いや、80点だって取れるんです。高校入試ってのはそういうもんなんです。などと、いよいよ昂ぶっていらして、俺は俺でその考え方に水を差してやりたくなり、少し懲らしめてやった。得てしてこの業界、こういった上昇志向というか、進歩主義とまでは言わないだろうが、一定以下の学力は非人間などと言いかねないような人がたまにいる。うるせーなあ。

少年からしてみれば、高校なんてどうでもいい。親だとか、俺たちが勝手に決めたレールに乗っけられているだけ。受験して、就職して、結婚して、子供が巣立ち、老いるという人生の筋書きは彼らには絶望感しか与えない。未来よか空でも見てる方がよっぽどマシだろう。いや、俺でさえ未来より空を見ていたいし、むしろ見るべきとさえ思う。

塾やめろ。時間がもったいない。遊べ、もっと遊べ。遊ぶ時間は勝ち取れ。

まだ未熟な頃生徒向かって投げた言葉。本気で辞めて欲しかったが、激励されたと勘違いするのか、辞める人はいないし、こういう言葉を言われる人間は大概、そこから頑張ることもしない。したとして、何か実を結んだとして、他人より突出することはまずない。それより俺が憤るのは、なんで空を見ないかということだ。アナーキズムがない。少年は空を見ない。

美しく生きろよ。社会と現実は別のものだ。常に此方は彼方、彼方は此方だ。好きな方を選べよ。飲みたくない薬は飲むな。反抗を目的にするな。アナーキズムの地平にお前の家を建てろよ。ああ、でもこれは、少年の頃の俺が見ていた夢だ。結局できの悪いやつには反抗さえできやしないのか。アナーキズムにも才が必要なのか。なるほど。笑えねえ。

ああ、そうか。堕落した人間は空を見ない。俺も空を見なくなった。俺は俺に憤っていたのか。