上海ベイベと香港ガーデン

自堕落な元バンドマンの独り言集。

怪物の胃袋

嵐は猛り狂っていた。楽観して帰路に着いたものの、傘はすぐに無用になった。靴の中は水たまりになっていた。服が重い。目も開けるのも一苦労という、そんな夜だった。すぐ先のほうが全く見えず、絶えず稲妻の低音が唸り、数分おきに巨大な破裂音をあげていた。案外、雷で死ぬというのはあることなのかも知れないと考えながらコンビニで雨宿りしている人々を横目に通り過ぎていった。

道も半ばというところで、明らかに頭上が閃いた。赤い。赤い稲妻を初めて見た。なんとなく、ここで死ぬのかもしれないと夢見心地でそれに見惚れた。その煌めきも、唸りも、落雷の衝撃も、あまりの荘厳さに花火大会がちゃちに思えた。ほとんど神を見たような気がする。町中がただ神妙にこの夜を越えていることを想うと、審判を待つ罪人のように私もただ神妙にして何かを待っているような気がした。

自宅に着いて一息ついている間も、稲妻は低く唸り続けていた。町中が怪物の胃袋の中のような気がした。