上海ベイベと香港ガーデン

自堕落な元バンドマンの独り言集。

午睡

太陽が冬の薄い空気を貫いて枯木の肌色を美しく見せるので、もう二月も終わりか、と感じた昼下がりである。毎年、二月から四月にかけては感傷的になりやすい。

 

先日女にフラれてから本当に卑屈になってしまったみたいだ。ただただ当て所なく飲み歩いて、素面になる時間もほとんどなく、一日一日の境もなく、意識無意識の境もなく。だから本当に先ほど二月の終わりであることに気づいたばかりだった。

本来なら俺は失恋で死ねる質だが、何故だか生来愛されやすい性質を持っているために死なずに済んだようだった。特に自ら誘った覚えはないが、十日ばかりで三人の女が俺を抱いた。なぜなのか、分からない。人間はみんな寂しいのかも知れない。俺は彼女らを愛さないし彼女らも俺を、憐れみはしても、愛さないだろう。ただただ身体を重ねた遊戯である。幽霊のようだと思った。

ただ面白いと思ったのは、一寸の火遊びでも彼女らのほうで色々感じる事があるようで、事後になって愛にすり替えようと試みたり、その逆に罪悪感から疎遠にしようとしたりする。その瞬間だけ人間らしくて、可愛い。何も感じず、ただ面倒にならなければどうにでもなってよろしい俺よりマトモじゃないか。

そうして女の玩具になって、女を玩具にすることで、俺は人間を……。いや、大仰な話に飛躍したくない。俺は根っからの無頼派だ。……いや、無頼派でもない。ただの馬鹿者である。

とにかくそうやっているうちに金も尽き、指先の痺れも止まらなくなってきて、身体が壊れそうになり、もう一生酒は見たくもないという段階に至ってようやくだんだんと意識が戻ってきて、それからはゲームに逃避して暮らしたが、三日ほどでふと突然に一人泣き出した。己を汚せば汚すほど、俺の愛した少女の面影がより強く輝いて見えて、涙が止まらなくなった。また酒に逃げる。

 

「お前はきっと、これから地獄を見る。数年は這い上がれない。」

そのようなことを最近、誰かに言われた気がする。嬉しかった。甘い響きがした。地獄は少女の美しさを覚えている限り続くのだ。その気になれば、地獄を行けるかしら。昔、愛した女を無理に忘れて、近くの女に懸命に愛そうとして青春をフイにしたことがある。あれは長い地獄だった。俺の半生は、地獄を脱するために行った数々の試みがその総てだったかのように思う。今回彼女を愛したのは、この地獄を脱する為の最後の希望であったからに他ならない。俺の絶望は真っ当なものだ。健全なものだ。笑う者、諭す者、皆殺してやる。

 

彼女の為に総て失った俺は途方に暮れたが、おかげで気づいたこともある。文章の美しさはその魂となんの関係も無いこと。文章の美しさは決して失われないこと。美は絶望の中で咲くということ。それは恐ろしいものであるということ。こうして地獄の手に絡め取られた俺は文章から逃れられないということを、薄らぼんやり考えていた。

 

気づけばもう、黄昏になっていた。